前稿(分光分布とは?)では、電磁波のパワーについて見てきた。電磁波は単純な物理量であり、ヒトの眼の感じ方を考慮していない。
では、ヒトの眼の感じ方とはいったい何なのか。それを視感度という。
視感度という言葉の界隈には、比視感度やら最大視感度やら、なにかと紛らわしい用語が多い。
本稿ではそれらの用語の整理も含め、視感度について詳しく解説していく。
視感度とは何か
まず、視感度は放射束$1\,\mathrm{W}$に感じる光束$\,\mathrm{lm}$ である、ということをご説明しようと思う。
放射量にヒトの光の感じ方を掛けると測光量になる。放射量や測光量というのは単なる数量の総称であるから、ここで少し具体的に数量で考えたい。放射量は放射束とする。放射束の単位は$\mathrm{W}$である。同様に、測光量は光束とする。光束の単位は$\mathrm{lm}$である。
あとは、ヒトの光の感じ方が分かれば光束が求まる。上の図の「?」の部分である。
例えば放射束が$2\,\mathrm{W}$の電磁波があって、これの光束を求めたいとする。「?」が$100$であれば光束は$200\,\mathrm{lm}$で、$500$であれば$1000\,\mathrm{lm}$となる、といった単純な掛け算で求まる。
「?」の単位はどうなるのか。「?」は、放射束の単位$\mathrm{W}$を消した上で、光束の単位$\mathrm{lm}$を発生させるという機能をもつ。よって、「?」の単位は$\mathrm{lm/W}$となる。
これが視感度(しかんど/spectral luminous efficasy)と呼ばれる数量である。
放射束が$1\,\mathrm{W}$の電磁波があって、視感度が$600\,\mathrm{lm/W}$であるとする。このとき、光束は$1\,\mathrm{W}\,\times600\,\mathrm{lm/W}=600\,\mathrm{lm}$となる。つまり、視感度は、放射束$1\,\mathrm{W}$に感じる光束$\,\mathrm{lm}$ を表しているということになる。
視感度は、放射束$1\,\mathrm{W}$に感じる光束$\,\mathrm{lm}$ を表している
視感度は波長によって異なる
視感度は最大で$683\,\mathrm{lm/W}$である。この$683$という値を特に最大視感度という。
「最大」というからには、視感度は一定ではないということだ。では、視感度は何によって変動するのか。その答えは、電磁波の波長である。視感度は注目する電磁波の波長によって数値を変えるのである。
これの意味するところは、ヒトの眼の光に対する感度は光の色によって異なるということだ。同じ放射束$\,\mathrm{W}$の電磁波でも、ある波長では明るく感じ、ある波長では暗く感じる。
あるとき、視感度を波長ごとに調べる被験者実験が行われた。結果、波長$555\,\mathrm{nm}$のときに視感度が最も高く、その視感度は$683\,\mathrm{lm/W}$と定められた。
これは測光量を考えるうえで最も根本的な規定である。イメージはこうだ▼
では、他の波長ではどうなるのか。下のグラフが、視感度を波長ごとに表現したものである▼
前述の通り、視感度は波長$555\,\mathrm{nm}$のとき最大値$683\,\mathrm{lm/W}$をとる。そこから短波長あるいは長波長側へ行くにつれて、視感度は徐々に低下する。
例えば、波長$468\,\mathrm{nm}$のときの視感度は$136\,\mathrm{lm/W}$となる。波長$555\,\mathrm{nm}$のときと比較して、5分の1の程度の視感度である。つまり、同じパワーの電磁波であっても、人間は$486\,\mathrm{nm}$の電磁波に対して、$555\,\mathrm{nm}$の電磁波の5分の1に相当する明るさしか感じないということである▼
なぜ$683\,\mathrm{lm}$という中途半端な光束値が視感度の最大値として定められたのか。正確には「定めた」というよりも「測定された」という表現が適切かもしれない。
実は、このような電磁波パワーから可視光のパワーを規定するという検討がなされる以前より、光束という明るさの単位は存在した。ただ、それまでの光束は電磁波と関連していなかった。要するに、それまでの明るさの表現は物理量との関連が薄かったのである。
だが次第に、「明るさ」も物理量として正確に捉えようという動きが高まってきた。波長$555\,\mathrm{nm}$の電磁波に対する視感度が他のどんな波長に対する視感度よりも強いことが判明し、実際に$555\,\mathrm{nm}$で$1\,\mathrm{W}$の電磁波は人間に$683\,\mathrm{lm}$という明るさを与えることが測定されたのである。
このとき、「$555\,\mathrm{nm}$で$1\,\mathrm{W}$の電磁波は$1000\,\mathrm{lm}$」と定めてしまえば数値としては扱いやすかったであろう。しかり、それではもともとあった光束値と違いが生じ、大混乱を招く。そんなわけで、$683$という中途半端な光束値を基準とすることになったのである。
比視感度とは何か
視感度は、最大値が$683$という中途半端な数値のため、若干扱いにくい。比視感度というのは、これを扱いやすくするための考え方だ。視感度がその表現方法を変えたものであり、本質的には視感度と比視感度は同じである。
具体的には、ある波長の視感度を最大の視感度$683$に対する比で表そうというものである。
波長$468\,\mathrm{nm}$のときの視感度$136\,\mathrm{lm/W}$は、比視感度$0.2$となる。最大の視感度$683\,\mathrm{lm/W}$は、比視感度$1.0$で、これが最大値となる。グラフはこのようになる▼
曲線の形は変わらない。$683$という定数で割ったのだから当然である。
では、比視感度を数式化してみる。一般に、視感度や比視感度はこのような記号で示される▼
- 視感度:$K\rm(\it\lambda\rm)\,\mathrm{lm/W}$
- 比視感度:$V\rm(\it\lambda\rm)$
$\lambda$は波長の記号である。$K\rm(\it\lambda\rm)$とは、視感度$K$が波長$\lambda$によって変わる数量だ、ということを示す(関数表現)。比視感度$V\rm(\it\lambda\rm)$も同様。
これらを用いると、比視感度$V\rm(\it\lambda\rm)$は、
$V\rm(\it\lambda\rm)=\it K\rm(\it\lambda\rm)/683$
と表すことができる。視感度$K\rm(\it\lambda\rm)$も最大視感度$683$も単位は同じく$\mathrm{lm/W}$であるから、打ち消されて比視感度$V\rm(\it\lambda\rm)$の単位はなくなる。
逆に、視感度を比視感度と最大視感度で示すならこのような表現になる▼
$\it K\rm(\it\lambda\rm)=683\,\it V\rm(\it\lambda\rm)$
ちなみに、最大視感度$683\,\mathrm{lm/W}$には$K_{\rm m}$という記号が与えられている。専門書では$K_{\rm m}$を使った表現が多いようだ▼
$\it K\rm(\it\lambda\rm)=\it K_{\rm m}\it V\rm(\it\lambda\rm)$
視感度、最大視感度、比視感度のまとめ
- 視感度:$0~683$の数値、記号は$K$、単位は$\mathrm{lm/W}$
- 最大視感度:視感度の最大値で$683$、記号は$K_{\rm m}$、単位は$\mathrm{lm/W}$
- 比視感度:$0~1.0$の数値、記号は$V$、単位はなし
※比視感度は視感度を683で割ったものである
視感度を使って、放射量を測光量に変換する
一般に、放射束と光束はこのような記号で示される▼
- 放射束:$\it\Phi_{\rm e}\rm(\it\lambda\rm)\,\mathrm{W}$
- 光束:$\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)\,\mathrm{lm}$
さて、どうやって放射束から光束を求めるかであるが、放射束に視感度を掛ければよい。放射束から光束への変換、すなわち放射量から測光量への変換は、これだけである。
ある波長$\lambda$の光束$\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)$は、その波長の放射束$\it\Phi_{\rm e}\rm(\it\lambda\rm)$とその波長の視感度$K\rm(\it\lambda\rm)$を使って、次のように表すことができる▼
$\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)=\it K\rm(\it\lambda\rm)\,\it\Phi_{\rm e}\rm(\it\lambda\rm)$
視感度$K\rm(\it\lambda\rm)$を最大視感度$683$と比視感度$V\rm(\it\lambda\rm)$の掛け合わせとして表現するのであれば、
$\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)=683\it V\rm(\it\lambda\rm)\,\it\Phi_{\rm e}\rm(\it\lambda\rm)$
となる。こちらの式の方が、比較的メジャーであるような気がする。
さて、これで放射量を測光量に変換する準備が整った。
残る問題は、普通は照明器具から発せられる光は様々な波長を含んでいるということだ。上の式は、ある特定の波長だけに注目したものである。よって、実際の光束を求めるには、様々な波長で測光量から放射量を求め、それらを足し合わせる必要がある。
次稿では、実際に白熱電球の光束を求めていく。これまでの内容を御理解頂いていれば、あとはそれほど難しくない話なので、もう少しだけお付き合い頂ければ幸いである。
物理学において「束」と名のつく量は$\it\Phi$(ファイ)で表されることが多い。これに倣うと、放射束も光束も同じく$\it\Phi$と表現することになるが、どっちがどっちか分かりにくい。そこで、光の物理量を扱うときはこんなルールが日本工業規格によって規定されている▼
・エネルギーに関する量には、energyの頭文字$\rm e$を添え字として付加する
・可視光に関する量には、visionの頭文字$\rm v$を添え字として付加する
コメント
[…] なぜなら、ここで話を戻しますが、そもそも光束や照度が、そのような心理物理量です。放射量から光束を得る被験者実験の簡単な説明は、何色が一番明るいのか? ~視感度という考え方~ をご覧ください。 […]
[…] しかし、整備された被験者実験により得られた回答を拠り所にした心理物理量は間違いなく有用である。なぜ断言できるかというと、ここで話を戻すが、そもそも光束や照度がそのような心理物理量だからである。放射量から光束を得る被験者実験の簡単な説明は、何色が一番明るいのか? ~視感度という考え方~ をご覧ください。 […]
[…] このあたりの話は、放射量と測光量(3)何色が一番明るいのか?視感度という考え方について で詳しく解説しているので、ご参考にして頂ければと思う。 […]
[…] しかし、整備された被験者実験により得られた回答を拠り所にした心理物理量は間違いなく有用である。なぜ断言できるかというと、ここで話を戻すが、そもそも光束や照度がそのような心理物理量だからである。放射量から光束を得る被験者実験の簡単な説明は、何色が一番明るいのか? ~視感度という考え方~ をご覧ください。 […]