測光量が心理物理量であることの意味について

測光量と放射量

測光量は純物理量ではなく心理物理量である。これが、「明るさ」をコントロールする照明計画という仕事にもたらす意味について考えていきたい。

測光量は心理物理量である

測光量は「ヒトの光に対する感度」を存分に含んだ数量である。純物理量ではなく心理物理量である。そして、照度や光束は照明計画で頻出する単位だが、これも測光量の一種である。ということはつまり、照度や光束も「ヒトの光に対する感度」を含んだ数量ことになる。

これは意外に思われる方も多いのではないかと予測する。照度は照度計という道具で測定が可能なので、非常に客観的な物理量であると認識されやすいのではないか、と思うからだ。

「明るさ」を定量化することの重要性

話は変わるが、「承認を得る」というプロセスがビジネスにおいて非常に重要であることは、誰もが同意するところかと思う。現場で起きるほとんどの問題は、承認を得る側・承認を下す側のどちらに責任があるのかは置いておいたとしても、このプロセスがおそろかであったことが根本的な原因である場合が多い。

照明業界、とくに建築と密接にかかわる照明を生業にしている筆者は、いつも「明るさの承認」について頭を悩ませる。

例えば、当たり前すぎる話だが、スタンドライトの高さは$\mathrm{mm}$で示す。図面内に$900\mathrm{mm}$と書いておいて、お客様から承認が得られれば、$900\mathrm{mm}$という数量に対して承認が下りたということになる。この$900\mathrm{mm}$という数量が後々問題になることはあまりない。もちろん、実際の空間に$900\mathrm{mm}$のスタンドが置かれた様子を見て、「図面上は良いと思ったけれどなんだかイメージと違う、もっと低くしてほしい」といったことは起こるが、それほどの頻度ではない。$900\mathrm{mm}$という長さの尺度が、誰もが客観的に捉えることのできる数量として機能するからこそ、その数量で承認を得られるわけである。

明るさでは簡単にはいかない。明るさを示す数量としてもっとも有力なのは現在のところ照度であろう。しかし、承認を得るための数量としては力不足であることが多々ある。その理由は大きく3つあると考えているが、本稿ではそれぞれについて詳しく述べることはせず、箇条書きで示すのみとする▼

  1. 照度は素材の反射率を考慮していない(同じ照度の壁でも暗い色の壁は暗い)
  2. 周囲の明るさや眼の性能の個人差など、明るさに影響する要因が考慮されていない
  3. お客様が照度を知っているとは限らない

そんなわけで、精確な明るさを示す数量の策定と、それが広く知れ渡ることは、照明計画において非常に重要な課題なのである。

今、「明るさ」を示す様々な指標(または明るさ評価アプリ)が提案されている。照明器具メーカーによるものであれば、例えば

  • Panasonic:空間の明るさ感指標 Feu(フー)
  • 遠藤照明:光環境評価アプリ Lupin(ルピン)
  • 岩崎電気:光環境評価システム QUAPIX

などが挙げられる。

曖昧と言われやすい「明るさ」という指標

上述した明るさの指標は、被験者実験を通して得られた、「眼の明るさの感じ方」の結果に基づき、検討に検討を重ねて考案された指標であると思われる。

視知覚にまつわる被験者実験は、脳波や血液のような被験者がコントロールしようのないデータ(※)を用いることが難しく、どうしても被験者の「回答」を拠り所にせざるを得ない。
※もしかしたらコントロールできるのかもしれません。専門ではないため、どうかご容赦ください。

実際には被験者のコントロールを逃れるような実験方法を採用していることがほとんどで、それが心理物理実験の醍醐味だったりもするのだが、それでも、「人の感覚なんて個人差もあるし、環境によっても変わるのだからアテにできない」と判断されることが多い印象を受ける。これは、明るさ感という曖昧極まりない(とされやすい)指標の発展を阻害している、ひとつの要因と思われる。

測光量が心理物理量であることの意味

しかし、整備された被験者実験により得られた回答を拠り所にした心理物理量は間違いなく有用である。なぜ断言できるかというと、ここで話を戻すが、そもそも光束や照度がそのような心理物理量だからである。
放射量から光束を得る被験者実験の簡単な説明は、何色が一番明るいのか? ~視感度という考え方~ をご覧ください。

照度が照明計画という分野に浸透したのは、ある程度の精確さで明るさを推定できる指標であると、多くの人が判断したからと言える。であれば、同様に心理物理量である「明るさ感」も、精確な指標となる可能性は十分にあると考えられる。

現時点では各社(各者)が最適と思われる「明るさ感」を次々と提案している段階であり、考え方が統一されていないのが現状だが、いずれは精確な指標として策定されるのではないかと予想している。

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