分光分布とは? 縦軸の単位ついてわかりやすく解説

測光量と放射量

分光分布の縦軸がわからない

前稿、光は電磁波の一種で、多くの光は様々な波長を含んでいるということをお話した。白熱電球の光の大雑把な色別パワーのイメージはこのようになる▼

このグラフも分光分布なのである。ただ、大雑把すぎるというだけである。

詳細に描くとこのようになる▼

「分光分布図の縦軸が何を示すのか分からない」という声を聞くことがある。

一言で言えば、分光分布図の縦軸が示すのは電磁波のパワーである。

パワーの単位が$\mathrm{W}$なのはまだ分かるにしても、長さの単位である$\mathrm{nm}$がなぜつくのか?、さらにときどき面積の$\mathrm{m^2}$がついていたりするがどいういう意味…?

本稿では分光分布の縦軸に注目することで、分光分布というものを詳細に解説していきたい。

電磁波のパワーを示すのは放射束だけ。

と書くと若干乱暴なのだが、そうイメージして頂いても大きな問題はない。

上の図を見て頂きたい▲

図中の左、放射束の単位は$\mathrm{W}$(ワット)である。右に3つ並んだ数量の単位に注目して欲しい。すべて、放射束の単位である$\mathrm{W}$を、$\mathrm{m^2}$や$\mathrm{sr}$で割ったものである。

$\mathrm{m^2}$は面積である。$\mathrm{sr}$(ステラジアン)は馴染みが薄いかもしれないが、立体角という3次元的な角度のことである。

要は、右に3つ並んだ放射強度・放射照度・放射輝度は全て、本質的には放射束である。必要に応じて、面積や角度で割っている(これを規格化という)。放射量というグループに属する数量は、放射束自体と、規格化された放射束のだけなのだ。放射束が放射量の基本といえる。

このように考えると、電磁波のパワーを示す放射量の単位が少し整理できるかと思う。

以降は、電磁波のパワーを示す量として、今回は放射量のうち最も単位の簡単な放射束を使っていこうと思う。

「波長○○nmの放射束」は測定できない

平たく言えば、分光分布は波長ごとの電磁波のパワー、つまり波長ごとの放射束となる。

レーザー光線などの特殊な光は除き、一般的な照明器具から発せられる光は、多くの波長の電磁波で構成されている。波長ごとの放射束を計測するとは、まず光を波長ごとに分解し(分光)、それぞれの放射束を順番に調べていく行為である。$600\,\mathrm{nm}$の放射束は$0.017\,\mathrm{W}$、$700\,\mathrm{nm}$の放射束は$0.024\,\mathrm{W}$…といった具合である。

しかし実際、ある特定の波長の放射束を直接計測するということは難しい、というか、ほとんど不可能と言える。まずはこのような話をしたい(分光分布の縦軸の単位に$\mathrm{nm}$が含まれることと関連する)。

光を波長ごとに分解する作業は、注目する光源から発せられる光を、ある波長の電磁波だけを通すような「ふるい」にかけるイメージである。ある特定の波長だけを抽出する難しさは、文字通りの「ふるい」をイメージすれば分かりやすい。

砂場から直径がピッタリ$1\,\mathrm{mm}$の砂粒だけを持ってきてくれ、という依頼があったとする。粗さ$1.1\,\mathrm{mm}$のふるいを通った砂粒を、さらに粗さ$0.9\,\mathrm{mm}$のふるいにかけ、ふるいに残った砂粒を差し上げるのが正しい対応だろう。しかし正確には、その砂粒は$0.9~1.1\,\mathrm{mm}$という幅をもっているはずである。

ではどうするのか。砂粒の例え話からも分かるように、直径ピッタリ$1\,\mathrm{mm}$の砂粒では難しいが、直径に$0.9~1.1\,\mathrm{mm}$という幅が許されるのなら可能なのだ。分光測定でも同様で、つまり、ある特定の長さの波長域に含まれる放射束を計測するのである。

具体的には、波長$600\,\mathrm{nm}$の電磁波の放射束を計測する場合、実際には$600\,\mathrm{nm}$を中心とした幅$2\,\mathrm{nm}$の波長域、すなわち$599\,\mathrm{nm}$から$601\,\mathrm{nm}$までの領域に含まれる放射束の総和を計測するのである。波長域の幅はおよそ$2~5\,\mathrm{nm}$程度であれば十分とされている(BREAK参照)。

どこまで狭い波長域を考えるのか?

「限りなく狭い波長域を設定することはできるのでは?波長域は狭ければ狭いほど精度の高い結果が得られるのでは?」という話があるが、これをしない理由は大きく2つある。

1つ目は、波長域を狭く設定しすぎると放射パワーが弱すぎて測定が困難になる(ノイズがのりやすい)という、測定の技術的な理由である。

2つ目は、そもそもそんなに波長域を狭く設定する必要がなく、どちらかと言えばこちらが本質的な理由だ。ノイズの問題を考えなければ、波長域は際限なく狭くできる。終わりがないのだ。どこかでストップしなければならない。ここで、波長ごとに光を分けるのはプロセスであって目的ではない、ということが重要になる。測光(可視光の測定)の目的は、ヒトの眼の「波長ごとに異なる感度で光を視る」という作用を正しく捉えた上で、可視光のパワーを定量化することであり、そのために波長ごとに光を分けるのだ。逆に言えば、その作用を正しく捉えられるような波長域で光を分解すればよい、ということになる。様々な検討がなされた結果、適切な波長域長さははおよそ$2~5\,\mathrm{nm}$程度であればよいとされている。

単位波長あたりの放射量という考え方

この話は「分光分布とは何か」という観点において重要なので、丁寧に解説したい。

東京23区の区別人口について(例え話)

東京23区のうち、目黒区、中野区、北区、品川区、板橋区、杉並区、大田区、練馬区、世田谷区という9区は、一般に西部エリアと呼ばれる。西部エリアの総人口が477万人というデータが得られたが、それぞれの区の人口データはない、という状況を考える。この結果を、どうにかして横軸が23区のグラフに反映したい。横軸が23区というのが重要だ。このとき、このグラフが間違いであることはすぐ分かると思う▼

このグラフは、西部エリアに該当するならどの区にも477万人の人がいることを示す。そうではなくて、西部エリアの総人口が477万人なのだ。このデータを横軸が23区のグラフに表現することがそもそも無理なのでは?と思われるかもしれない。正確には無理なのだが、近似をすれば表現できる。つまり、477万人という人口を西部エリアに含まれる区の数9で割って、1区あたりの人口を53万人としてしまうのだ▼

縦軸の単位が万人から万人/区に変わっている。このグラフでは、目黒区にも53万人、世田谷区にも53万人の人がいることになる。実際は、2020年1月1日時点で目黒区の人口は約28万人、世田谷区は約91万人なのでかなり大胆な近似なのだが、先ほどと比較すれば人口の実態を上手く表現している。西部エリアの総人口が477万人というデータだけ得られている場合、それを横軸が23区のグラフに表現しようとすれば、これ以上の処理はできない。

単位波長あたりの放射量=放射量の密度

では、疑似的に白熱電球の分光分布を考えていきたいと思う。

後の議論を簡単にするために、ここでは$50\,\mathrm{nm}$というかなり粗い波長域で考えていきたい。仮に、$680\,\mathrm{nm}$から$730\,\mathrm{nm}$までの赤色光波長域に含まれる放射束を測れる装置があるとする(実際にこんな限定的な装置はないはず)。これを点灯している電球に対して使って、$1.2\,\mathrm{W}$という測定結果が得られたとする。

この結果を、横軸が波長のグラフに表現することを考える。まず、このグラフは間違いだ▼

このグラフは、波長$680\,\mathrm{nm}$~$730\,\mathrm{nm}$の電磁波ならすべて、$1.2\,\mathrm{W}$の放射束を有する、ということを示してしまっている。$690\,\mathrm{nm}$の電磁波の放射束は$1.2\,\mathrm{W}$、$700\,\mathrm{nm}$の放射束も$1.2\,\mathrm{W}$…という具合だ。

$690\,\mathrm{nm}$と$700\,\mathrm{nm}$の放射束が同じであることが問題なのではなくて、そもそもの解釈が誤っている。$680\,\mathrm{nm}$~$730\,\mathrm{nm}$の波長域に含まれる放射束の総和が$1.2\,\mathrm{W}$なのだ。この結果を、横軸が波長のグラフに表現するには、総放射束$1.2\,\mathrm{W}$を波長域の長さ$50\,\mathrm{nm}$で割らなければならない

$1.2\,\mathrm{W} / (730\,\mathrm{nm}-680\,\mathrm{nm}) = 1.2\,\mathrm{W} / 50\,\mathrm{nm}=0.024\,\mathrm{W/nm}$

この$0.024\,\mathrm{W/nm}$という数値は、波長$1\,\mathrm{nm}$あたりに含まれる放射束、いわば放射束の詰まり具合を示しているから、放射束密度と呼ばれる。グラフにするとこのようになる▼

縦軸が放射束$\mathrm{W}$でなく放射束密度$\mathrm{W/nm}$になっているのはこういう理由である。分光分布は波長ごとの放射束密度を表したグラフなのである。

もちろんこのグラフも、かなり目に大胆な近似で成立している。$680\,\mathrm{nm}$~$730\,\mathrm{nm}$の波長域には、一定して$1\,\mathrm{nm}$あたり$0.024\,\mathrm{W}$という密度で放射束が分布している、という近似だ。これはちょうど、東京23区西部エリアには1区あたり53万人の人がいると近似していることと同じである。しかし、$680\,\mathrm{nm}$~$730\,\mathrm{nm}$の波長域に含まれる放射束の総和が$1.2\,\mathrm{W}$というデータしか得られていない場合、それを横軸が波長のグラフに落とし込むには、これ以上の処理はできないのだ。

分光分布は、単位波長あたりの放射量を、波長にわたって表現したグラフである

分光分布の縦軸が示すモノは?

ここでいったん話をまとめたい。ある特定の波長の放射束を直接計測することは難しい。よって、ある長さをもった波長域に含まれる放射束の総和を計測するしかない。ただし、その結果を横軸が波長のグラフに落とし込むには、縦軸には測定された放射束の総和を波長域の長さで割った値、すなわち単位波長あたりの放射束(=放射束密度)を使う必要がある。

つまり、分光分布の縦軸は波長$1\,\mathrm{nm}$に含まれる放射量を示す。数式のように表現すると、このようになる▼

放射量$/\,\mathrm{nm}$

基本、これだけ。単位がややこしくなる場合があるのは、下図のように放射量の中にはすでに面積や立体角で割られた量があるからだ▼

例えば今回のように放射量として放射束を用いる場合は、放射束の単位は$\mathrm{W}$なので、分光分布の縦軸の単位は、

放射束$\mathrm{/nm}=\mathrm{W/nm}$

と比較的シンプルになる。

しかし放射照度を用いる場合、その単位は$\mathrm{W/m^2}$なので、

放射照度$\mathrm{/nm}=\mathrm{(W/m^2)/nm}=\mathrm{W/(m^2・nm)}$

と複雑に見える。

ただ、どれほど単位が複雑になろうとも、分光分布の縦軸が示すのが波長$1\,\mathrm{nm}$に含まれる放射量であることに変わりはない。

分光分布図の縦軸は、波長$1\,\mathrm{nm}$に含まれる放射量を示す

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