放射量から測光量への変換 わかりやすく解説します

測光量と放射量

シリーズ「放射量から測光量への変換」は本稿で最終回となる。

前稿視感度とは?視感度と比視感度の違いは?では、視感度と呼ばれる眼の光に対する感度に着目して、特定の波長の放射束から特定の波長の光束を求める方法について考えてきた。

しかし実際は、光というものは様々な波長を含むため、最終的には波長ごとに求めた光束を足し合わせなければならない。

本稿ではそのプロセスを考えていきたい。

放射量から測光量への変換式

測光量と放射量と視感度の関係

放射量から測光量を求める基本的な考え方は、放射量に対してヒトの光の感じ方をかける、ただそれだけである▼

「放射量」、「測光量」という言葉は、物理量のグループの名前である。具体的には、下の表のような物理量をもつ▼

単位に着目して頂きたい。放射量のグループの一番上、放射束の単位は$\mathrm{W}$であり、他の放射量と比べても単位が単純だ。放射輝度の単位$\mathrm{W/(sr・m^2)}$と比較するとその単純さが分かりやすい)。したがって、本稿では放射量の中で最も単純な単位をもつ放射束を扱う。

同様に、測光量の中では光束($\mathrm{lm}$)が最も単位が単純なので、これを扱うことにする▼

放射量という言葉を放射束という物理量、測光量という言葉を光束という(心理)物理量に置き換えただけである。このとき、両者を行き来するための架け橋が視感度と呼ばれる数量で、ヒトの光の感じ方に相当する。

記号の適用

次に、これらに記号を与えていきたい。数式として処理しやすくするためだ。

通常、照明器具から発せられる光というものには様々な波長が含まれる。波長が変われば、視感度が変わる。したがって、視感度を使って放射量を測光量に変換するには、光束や放射束も波長ごとに考える必要がある。

そこで、ある特定の波長$\it\lambda$の視感度を$\it K\,\rm(\it\lambda\rm)$と表現することにして、同様に放射束は$\it\Phi_{\rm e}\rm(\it\lambda\rm)$、光束は$\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)$とする▼

視感度について

視感度は比視感度$\it V\,\rm(\it\lambda\rm)$と最大視感度$683$の掛け合わせでも表現できる▼

視感度の表現方法の違いであって、本質的な意味に違いはないので、どちらでもいい。$683$という数値には、最大視感度(あるいは最大視感効果度)という名前が与えられている。測光学において$683\,\mathrm{lm/W}$という数値は非常に重要なので、これが数式の中に表れているという点では意味があるかもしれない。

放射束について

次に放射束$\it\Phi_{\rm e}\rm(\it\lambda\rm)$に注目する。

ある特定の波長の放射束は、その波長の放射束密度$P\rm(\it\lambda\rm)$と、十分に狭い波長域の長さ$\it\Delta\lambda$の掛け合わせで表現する▼

この放射束の表現方法は、先ほどの視感度のようにどちらでもいいというわけにはいかない。なぜなら、通常の照明器具から発せられる光を考えるとき、ある特定の波長の放射束$\it\Phi_{\rm e}\rm(\it\lambda\rm)$は直接計測することができないからである。

放射束から光束への変換式

放射束を光束に変換する式は下記の通り▼

$\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)=\it P\rm(\it\lambda\rm)・\Delta\lambda\,\times\,683・\it V\rm(\it\lambda\rm)$


                 $\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)$:光束
                 $\it P\rm(\it\lambda\rm)$:放射束密度
                 $\it V\rm(\it\lambda\rm)$:比視感度
                 $\it\Delta\lambda$:波長域長さ

放射束を光束へ変換する

実際に計算をしていきたい。

ある白熱電球の分光分布はこのようであるとする▼

図1

比視感度はこのようであるとする▼

図2

これらの情報から、白熱電球の光束を求めることを考える。

まずは一番左側、紫の領域に注目すると、放射束密度・比視感度・波長域長さは以下のように読み取れる。

  $\it\lambda\rm=405$のとき、
    放射束密度$\it P\rm(\it\lambda\rm)=0.002\,\mathrm{W/nm}$
    比視感度$\it V\rm(\it\lambda\rm)=0.1$
    波長域長さ$\it\Delta\lambda\rm=50\,\mathrm{nm}$

よって、波長$405\,\mathrm{nm}$の光束は以下のように求まる。

  $\it\lambda\rm=405$のとき、
    $\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)=\it P\rm(\it\lambda\rm)・\Delta\lambda\,\times\,683・\it V\rm(\it\lambda\rm)$
      $=0.002・50\,\times\,683・0.1$
      $=6.83\,\mathrm{lm}$

これを、残り6つの波長についても行う。すべてを数式で書くと見にくいので、表にする▼

最後に、各波長ごとに求めた光束を全て足し合わせることで、注目した白熱電球の光束が求まる、というわけだ。

ただし、今回の波長域長さ$\it\Delta\lambda\rm=50\,\mathrm{nm}$というのは長すぎて、精度が低い。実際は、放射束密度も比視感度も、下に示すような$2\,\mathrm{nm}$程度の波長域で考える必要があり、グラフではこうなる▼

ただ、計算量が増えるだけで、作業自体は変わらない▼

この表の操作を数式化で表現とすると、積分になる▼

$$\it\Phi_{\rm v}=\rm 683\int_{\rm 380}^{\rm 730}\it P\rm(\it\lambda\rm)\it V\rm(\it\lambda\rm)\it d\it\lambda$$

ヒトの光の感じ方を考慮するということ

再び、波長域長さ$\it\Delta\lambda\rm=50\,\mathrm{nm}$の分光分布と比視感度を登場させる。

このような分光分布をもつ放射をヒトの眼で視るとはどういうことなのか、考えていきたい。

波長$680~730\,\mathrm{nm}$の赤色波長域の放射束は$0.024\,\times\,50=1.2\mathrm{W}$で、この波長域の比視感度は$0.1$である。これを、眼は放射束$1.2\,\mathrm{W}$の$10$%に相当する$0.12\,\mathrm{W}$を「光」として知覚する、という解釈してみよう。他の波長域でも同様で、図示するならこのようになる▼

赤の波長域の放射束は他の波長域のそれより高いが、その波長域の比視感度$0.1$と低いため、そのパワーの$1$%しか光として知覚されない。一方、黄や橙の波長域の放射束は赤色放射域のそれよりも低いが、その波長域の比視感度は$0.5$と高めであるから、光として知覚される放射束は赤色放射域の場合と比べて多い。結果として、赤の波長域から得られる明るさよりも、黄や橙の波長域から得られる明るさの方が大きい、といった具合である。

波長域長さ$\it\Delta\lambda\rm=2\,\mathrm{nm}$で考えれば、このようになる▼

人間の眼はこのように、各波長の放射束に対してフィルターのようなはたらきをする。これが、ヒトの眼で光を視るという意味である。そして、そのフィルターを定量的に表現したものが視感度となる。各波長の放射束に、対応する比視感度を掛けるという作業が、ヒトの光の感じ方を考慮することになる。

比視感度の「比」は電磁放射に対する「比」ではなく、波長$555\,\mathrm{nm}$のときの視感度に対する「比」である。つまり、比視感度$0.1$という数値は、その電磁放射の$1$割に明るさを感じるという意味ではなくで、波長$555\,\mathrm{nm}$のときの視感度に対して$1$割の強さの視感度をもつ、というのが本来の意味である。ただ、いずれの解釈をしても数式的には同じ意味で(何に何が掛け算されているかという程度の話)、大きな問題にはならない。

まとめ

放射束を光束に変換する式は下記の通り▼

$\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)=\it P\rm(\it\lambda\rm)・\Delta\lambda\,\times\,683・\it V\rm(\it\lambda\rm)$

数式として見栄えがいいように各項を並び変えると、このようになる▼

$\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)=683\it P\rm(\it\lambda\rm)\it V\rm(\it\lambda\rm)\Delta\lambda$


                 $\it\Phi_{\rm v}\rm(\it\lambda\rm)$:光束
                 $\it P\rm(\it\lambda\rm)$:放射束密度
                 $\it V\rm(\it\lambda\rm)$:比視感度
                 $\it\Delta\lambda$:波長域長さ

最大視感度$683\,\mathrm{lm/W}$を$\it K_{\rm m}$と表せばこのようになる▼

$$\it\Phi_{\rm v}=\it K_{\rm m}\int_{\rm 380}^{\rm 730}\it P\rm(\it\lambda\rm)\it V\rm(\it\lambda\rm)\it d\it\lambda$$

専門書ではこの表現が最も多いと思われる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました